児童福祉施設最低基準とは?保育所の設備・運営のポイントをわかりやすく解説

保育所などの児童福祉施設を設置・運営する際には、「児童福祉施設最低基準」の遵守が不可欠です。この基準には、子どもの安全と健やかな発達を守るために、施設の設備・構造、職員の配置、運営方法などのルールが細かく定められており、施設運営の重要な指針となっています。
この記事では、「児童福祉施設最低基準」とは何かをわかりやすく解説し、特に保育所における設備や運営のポイントについて詳しく紹介します。
児童福祉施設最低基準とは
児童福祉施設を新たに設置する場合や運営を見直す際には、児童福祉施設最低基準を把握することが重要です。
児童福祉施設最低基準とは、児童の健全な育成と福祉の確保を目的として、児童福祉施設の設備および運営に関する最低限のルールを定めた厚生労働省令を指します。
児童福祉法第45条に基づき、建物の構造、保育室の面積、職員の配置や資格、衛生管理など、多岐にわたる項目が規定されています。
2011年10月に名称変更
2011年10月7日、「児童福祉施設最低基準」は「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準」へと名称が変更されました。
同時に、職員の資格や配置に関する要件、設備の細かな基準に至るまで多くの内容が改正されています。
例えば、従来は保育士の配置基準に含まれなかった「准看護師」が、1名まで保育士としてカウントできるようになりました。
この改正は、保育所等の運営実務に大きな影響を与えています。
児童福祉施設の種類
児童福祉施設最低基準の適用を受ける施設は、以下の13種類に分類されます。
■助産施設
■乳児院
■母子生活支援施設
■保育所
■児童更生施設
■児童養護施設
■医療型障害児入所施設
■福祉型障害児入所施設
■医療型児童発達支援センター
■福祉型児童発達支援センター
■児童心理治療施設
■児童自立支援施設
■児童家庭支援センター
子どもや保護者の支援、医療ケア、心理的ケアなど、その役割や機能は施設ごとに異なるものの、すべて児童福祉法に基づく施設です。
いずれも子どもの最善の利益を守ることを目的としており、社会全体で子どもを支える重要な基盤となっています。
【最新】児童福祉施設最低基準に基づく保育所設備・運営のポイント

これから保育所の設置を検討している方や、既存の施設を見直したい方にとって、現行の基準を正しく理解することは非常に重要です。
続いては、児童福祉施設最低基準の中でも、特に保育所の設備や運営に深く関わる項目について詳しく解説します。
設備の基準
保育所の設備に関する基準は、子どもの年齢や発達段階に応じて異なります。
安全性と快適性、発達支援の観点から、最低限整えておくべき面積や部屋の種類が細かく定められています。
年齢 | 設備 | 面積 |
0〜1歳児 | ・乳児室またはほふく室 ・医務室 ・調理室 ・便所(トイレ) | ・乳児室:1人あたり1.65㎡以上 ・ほふく室:1人あたり3.3㎡以上 |
2歳児以上 | ・保育室または遊戯室 ・屋外遊戯場※ ・調理室 ・便所(トイレ) | ・保育室または遊戯室:1人あたり1.98㎡以上 ・屋外遊戯場:1人あたり3.3㎡以上 |
施設の換気・採光・防音・避難経路なども含めて、子どもが安心して過ごせる環境であることが求められます。
新築だけでなく、既存の建物を改修して保育所に転用する場合にも、これらの基準を満たさなければいけません。特に注意したいのは、「採光」です。保育室の採光の基準は照明設備で対応できないものがあります。
職員配置の基準
保育士の配置基準は、子どもの年齢ごとに異なり、きめ細かな保育を提供するための重要なルールとなっています。
子どもの年齢 | 保育士の配置人数 |
0歳児 | 子ども3人に対し保育士1人以上 |
1〜2歳児 | 子ども6人に対し保育士1人以上 |
3歳児 | 子ども15人に対し保育士1人以上 |
4歳児以上 | 子ども25人に対し保育士1人以上 |
2024年度には、3歳以上児の職員配置基準が見直され、従来よりも保育士1人あたりが担当する子どもの数が減少しました。これにより、子ども一人ひとりに向き合う時間が確保されやすくなり、保育の質の向上が期待されています。
また、原則として、保育士資格を有する職員の配置が求められますが、保育士不足の現状に対応するため、以下のような例外も認められています。
■幼稚園教諭、小学校教諭、養護教諭の免許を持つ者は保育士としてカウント可能
■保健師、看護師、准看護師が在籍する場合、1名に限り保育士としてみなすことが可能
柔軟な人員配置ができるようになりましたが、自治体によって独自の基準が設けられている場合もあるため、事前の確認が必要です。
保育時間の基準
保育時間は、家庭の就労状況に応じて2つの区分に分けられています。
保育標準時間: 1日の最大利用時間が11時間
保育短時間 : 1日の最大利用時間が8時間
原則として、保護者の月間就労時間が120時間以上であれば「標準時間」、それ未満であれば「短時間」です。
保育内容の基準
保育内容については、厚生労働省が定める「保育所保育指針」に準拠して運営されなければいけません。
保育所保育指針には、年齢ごとの発達段階に応じた保育のねらい、活動内容、養護と教育のバランスなどが詳細に記されています。
乳児期には「基本的信頼感の形成」、3歳以上では「自立心や社会性の芽生え」など、段階ごとに重視する内容が異なるため、保育指針に沿ったカリキュラムづくりと職員間の連携が、質の高い保育を実現する鍵となるでしょう。
保護者との連絡
児童福祉施設最低基準では、保護者との連携も重要な運営要素として明記されています。
保育所は、日々の保育内容や子どもの様子について保護者に積極的に情報提供し、理解と協力を得る努力をしなければなりません。
従来は、紙の連絡帳を用いるのが一般的でしたが、現在では保育支援アプリやクラウドシステムの導入により、スマートフォンでの連絡や写真共有が可能になっています。
保護者とのコミュニケーションがスムーズになり、保育の透明性も高まっていると言えるでしょう。
保護者との信頼関係の構築は、保育の質の向上にもつながるため、施設としても積極的な取り組みが求められます。
保育所の建築で児童福祉施設最低基準以外に意識したいポイント

児童福祉施設最低基準は、あくまで施設としての「最低限の基準」を示すものです。
そのため、子どもたちにとってより良い保育環境を整えるためには、さらに踏み込んだ設計や工夫が求められます。
続いては、保育所づくりにおいて意識したい児童福祉施設最低基準以外のポイントについて、具体的に紹介します。
安全対策
子どもの命と健康を守るためには、施設全体にわたる安全対策が不可欠です。
例えば、保育室の床には転倒時の衝撃を和らげるクッション性の高いフロア材を使用し、壁の角にはR加工(丸みのある処理)を施すことで、ケガのリスクを軽減できます。
また、階段やベランダなど転落の恐れがある場所には、しっかりとした高さの手すりや柵を設けることも重要です。
保育士の動線
日々の保育業務を効率的かつ安全に行うためには、職員の動線にも配慮した設計の工夫が必要です。
保育室とトイレ、給食室、園庭などがスムーズに行き来できる構造にすることで、保育士の負担を減らし、緊急時にも迅速に対応できるでしょう。
また、園児の活動を常に見守れるよう、職員室から園庭が見渡せる配置にするなど、視認性の確保も重要なポイントです。
室内環境の向上
子どもたちが長時間過ごす遊戯室や保育室は、快適で健康的な環境であることが求められます。
自然光を十分に取り入れる大きな窓の設置や、断熱性・遮音性に優れた建材の使用はもちろん、感染症対策としての換気システムや空気清浄設備を導入するのもよいでしょう。
音や匂い、湿度の管理も含めたトータルな室内環境設計が、子どもと職員の双方にとって心地よい空間づくりにつながります。
遊びと学びのバランス
幼児期の発達において「遊び」は学びそのものです。
自由遊びの中で創造力や社会性が育まれるため、子どもたちが自分の興味関心に応じた活動を選べる環境づくりが求められます。
例えば、積み木や絵本コーナーなど多様な遊びのエリアを室内に設ける、園庭には自然物に触れられるエリアや水遊びスペースを作るなど、遊びと学びを融合させた設計をすることで、子どもにとっても保育士にとっても質の高い保育環境を実現できるでしょう。
児童福祉施設最低基準を知って安全・安心の保育所を運営しよう
保育所の設計や運営を行うためには、児童福祉施設最低基準の内容を正しく理解しておく必要があります。
また、園舎の設計を建築事務所に依頼する際には、児童福祉施設最低基準にしっかりと対応できる実績ある設計事務所を選ぶことが重要です。
また、最低限の基準を満たすだけでなく、子どもたちがのびのびと過ごせる空間や、保育士が働きやすい動線、安全性への配慮など、現場の声を反映することも必要になるでしょう。
私たちサイプラス(SAI+)は、保育園や幼稚園、認定こども園の園舎を専門に手がけている設計事務所です。
子どもたちと保育者の皆様のことを考え、各種法令や基準、安全対策などを踏まえた設計を提案させていただきます。
「子どもたちが毎日を楽しく、安全に過ごせる園舎をつくりたい」
そんな思いをカタチにするために、サイプラスでは一つひとつのプロジェクトに丁寧に向き合い、園長や保育士の皆様のご意見やご要望をしっかりとうかがったうえで、最適な空間設計をご提案いたします。
保育所の設計や園舎づくりをご検討の際は、ぜひサイプラス(SAI+)へお気軽にご相談ください。