04 KAIYUU

回遊性

自分で行き先を決められることが、主体性を育てる

吹き抜けを囲む2階の廊下を走る子どもたち。白い手すりと木の床

回遊性とは、円を描くようにスムーズに動き回れること。行き止まりがない、という意味で使われます。

行き止まりのない園舎では、こどもはもう一周します。その一周が、そのまま経験になります。

自分で行き先を決められる

道が一本しかなければ、こどもは端まで行って戻るしかありません。

輪になっていれば、どちらから回るか、どこで止まるか、途中で引き返すかを自分で決められます。

小さなことに見えますが、一日に何十回もくり返される選択です。

自分で決めて、自分で動いて、その結果を受け取る。この積み重ねが、自分で決めていいという感覚をつくっていきます。

大人が「あっちへ行きなさい」と言わなくても動きが生まれる園舎。私たちはそれを目指しています。

移動そのものが、遊びになる

こどもは、目的がなくても走ります。

輪になった動線では、走り続けられます。前を行く子を追いかけ、追い抜き、また追いかける。ルールのない追いかけっこが自然に始まります。

やがて「こっちから回ろう」「そこで待ってて」という言葉が出てきます。遊びの中に役割とルールが生まれます。

これは、大人が用意したゲームではありません。空間の形が、こどもたちに遊びを発明させています。

体を動かす量も自然に増えます。運動の時間を特別に設けなくても、日常の動きの中で体力が育っていきます。

逃げ場があるということ

回遊性には、もうひとつ大切な役割があります。

行き止まりの部屋では、けんかをしたとき距離が取れません。追い詰められた子は、泣くか、やり返すかしかなくなります。

輪になっていれば、こどもは自分で相手との距離を調整できます。すっと離れて、少し時間を置いて、また戻ってくる。

大人が仲裁に入る前に、こども自身が気持ちを立て直せる。その余地が空間にあることは、心の育ちにとって小さくないと考えています。

離れられるのは、戻れると分かっているから

こどもは、安心できる場所があるから探索に出られます。

先生の姿が見える。保育室の場所が分かる。いつでも戻れる。それが分かっているから、遠くまで行ってみようと思えます。

回遊できる園舎では、どこへ行っても必ずどこかにつながっています。迷子になりません。

行き止まりで引き返すのと、一周して戻ってくるのとでは、こどもの感じ方が違います。後者には「自分で戻ってきた」という手応えがあります。

空間の全体像を、体でつかむ

園舎を何度も回るうちに、こどもは建物の形を覚えます。

ここを曲がると保育室、その先にホール、その向こうが園庭。頭の中に地図ができていきます。

自分がいる場所と、行きたい場所の関係が分かること。これは、空間を把握する力の基礎になります。

見通しの効く回遊動線は、この地図をつくりやすくします。曲がった先が見えることで、こどもは次の行動を自分で決められます。

回れる形は、光と風も通す

回遊できる園舎は、こどもだけでなく空気も通します。

行き止まりの部屋が並ぶ形では、風の抜け道がありません。空気がこもり、換気は機械に頼ることになります。

輪になった動線には、必ず二方向以上の開口があります。窓を開ければ、風が入って抜けていきます。

光も同じです。奥まった部屋をなくすことで、多くの場所に自然光が届きます。昼間に照明を落とせる部屋が増えます。

動きのある空間は、明るく、風の通りがよくなる。私たちが回遊性を大切にする理由には、この面もあります。

一人になれる場所も、同時に要る

ずっと回り続けられるだけの園舎では、落ち着けません。

輪の途中に、少しくぼんだ場所や、静かな隅をつくります。ひとりで座れる幅の窓辺でも構いません。

動と静の両方があること。疲れたら休める場所が、走れる場所のすぐ近くにあること。

こどもが自分の状態に合わせて場所を選べるようにしておきます。

見通しは、必ず確保する

回遊性と見通しは、両立できます。

家具を低く抑える。壁の上部を抜く。開口の位置を揃える。こうした操作で、ぐるりと回れながらも保育室から全体が見える形にします。

保育士がこどもの位置を把握できることは、譲れない前提です。回れることを優先して死角をつくることはしません。

走る場所と、立ち止まる場所をつくり分ける

同じ幅の廊下がぐるりと続く形では、こどもは走り続けるだけになります。

途中で幅が広がる場所をつくると、そこで立ち止まる子が出ます。座り込む子、寝転ぶ子、集まって話す子。

幅が変わるだけで、その場所の使われ方が変わります。

天井の高さも同じです。高いところは開放的で声が大きくなり、低いところは落ち着いて小さな声になります。

回遊できる動線の中に、こうした変化をいくつか置きます。走り抜ける場所と、留まる場所が交互に来るようにします。

ただ回れるだけの輪ではなく、途中に居場所が点在している輪。そのほうが、こどもの過ごし方は豊かになります。

働く先生と、預ける保護者にとって

  • 動線が輪になると、避難の経路も複数になります
  • 配膳や寝具の運搬が、こどもの遊びとぶつからない道筋を確保します
  • 保護者から見て「どこで何をしているか」が分かりやすくなります

回れることは、こどものためであると同時に、日々の運営のしやすさにもつながります。

私たちが目指していること

こどもが自分で行き先を決め、自分で戻ってくる。その小さなくり返しが毎日ある園舎。

回遊性は、動線の効率の話ではなく、こどもの主体性の話だと考えています。

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