02 GOKAN

五感を刺激

感じ分けられる環境が、こどもの感性をつくる

黒板の壁に描かれた木の絵に葉を貼る子どもたち。木の床の広い保育室

「五感を刺激する園舎に」と言うと、カラフルな内装や、音の出る仕掛けを想像されるかもしれません。

私たちの考えは少し違います。刺激とは、情報を増やすことではなく、こどもが違いに気づけるようにすることだと考えています。

乳幼児期は、感覚が先に育つ

こどもは、言葉を覚えるより前から世界を受け取っています。

手で触ったときの温度。床を歩いたときの硬さ。窓から入る光のまぶしさ。給食の匂い。

言葉で説明できるようになるのは、ずっとあとです。それまでのあいだ、こどもは感覚だけで「これはどういうものか」を確かめ続けています。

このころに触れたものの幅が、そのまま感じる力の幅になっていきます。

だから園舎では、感覚に触れるものの種類を大切にします。見た目の美しさだけで素材を選ばないのは、そのためです。

「気づける」ことが、感じる力を育てる

壁一面に色があると、こどもはその一つひとつを見なくなります。音が常に鳴っていると、音を聞き分けなくなります。

情報が多すぎる環境では、感覚は働きを止めます。守るために、鈍くなるのです。

静かな面があるから、そこに落ちた影の形に気づきます。音の少ない時間があるから、雨の音に気づきます。

「あ、変わった」と気づく瞬間。この気づきこそが、感じる力を育てていると考えています。

気づくためには、余地が要ります。私たちが余白や静けさを大切にするのは、こどもの感覚を働かせるためです。

五感は、別々には働かない

雨の日の園庭を思い浮かべてください。

雨の音がします。濡れた土の匂いがします。空気は少し冷たく、光は弱く、水たまりに映る景色が揺れています。

こどものなかでは、これらがひとつの体験になります。音だけ、匂いだけ、ということはありません。

複数の感覚が同時に届くから、記憶に深く残ります。あとから雨の匂いを嗅いだときに、あの日のことを思い出す。そういう結びつき方をします。

だから私たちは、感覚への工夫を一箇所にまとめません。光の入る場所、音が変わる場所、手触りの違う場所を、園舎のあちこちに散らしておきます。

こどもが移動するたびに、感じるものが少しずつ変わる。その積み重ねが体験の厚みになります。

感覚の記憶は、あとから効いてくる

こどものころに過ごした場所のことを、大人になってから思い出すことがあります。

覚えているのは、たいてい細かいことです。廊下の木の匂い。夏の午後の光の色。給食の食器がぶつかる音。

言葉になる前に受け取ったものは、言葉より深いところに残ります。何年も経ってから、似た匂いや光に出会ったときに、まとめて戻ってくる。

私たちが園舎を設計するとき、この時間の長さを意識しています。

こどもがここで過ごすのは数年です。けれど、その数年で受け取った感覚は、その後ずっと持っていくものになります。

だから、安く早く仕上げられる素材だけで組むことはしません。触れるところ、目に入るところには、時間に耐えるものを選びます。

手触りの違うものを、混ぜる

木、土、布、金属、石、タイル。触ったときの温度も硬さも違います。

違うものが隣り合っているだけで、こどもの手は自然に伸びます。特別な仕掛けは要りません。

同じ木でも、削り方や仕上げで感触は変わります。ざらざらとつるつるが並んでいれば、こどもは何度も撫でて確かめます。

素材を選ぶときは、見た目だけでなく、触ったときに何が伝わるかで決めています。

光・音・におい・味

光は時間で動きます。朝と夕方で床の色が変わり、影の長さが変わります。

その変化は、こどもに時間の流れを教えます。時計を読めなくても、光の色で夕方が近いことが分かるようになります。

音は、響きすぎても消えすぎてもうまくいきません。声が反響しすぎると、こどもは大きな声を出すようになり、室内はさらに騒がしくなります。

吸音と反射のバランスを整えて、普通の声が届く部屋にします。落ち着いて話せる環境は、こどもの言葉の育ちにも関わります。

においは配置で決まります。給食室の匂いが保育室まで届けば、食事の時間が近いことが体で分かります。待ち遠しくなる時間が生まれます。

味わう場所は、少し特別にします。食べるところに光が入るだけで、食事の時間の印象は変わります。

ひとつの工夫に、二つ以上の役割を持たせる

感覚への工夫は、それだけで完結させません。

ベンチは収納にもなります。段差は舞台にもなります。開口は光を入れながら、隣を見通す窓にもなります。

限られた面積とご予算のなかで、感覚に効くものが使い勝手も良くする。そこまで考えて形にします。

働く先生と、預ける保護者にとって

音の環境は、こどもより先に保育士の疲れに出ます。一日中そこで過ごす人の負担を軽くすることは、設計の役割です。

  • 声が通り、反響しすぎない室内
  • 触りたくなる素材と、掃除しやすい素材の使い分け
  • においがこもらない換気の計画

こどものための環境が、働く人の負担になっては続きません。両立するところまでを設計と考えています。

私たちが目指していること

派手な仕掛けは、最初は喜ばれます。ただ、こどもは思ったより早く慣れます。

慣れたあとにも残るのは、光の変化や、手触りや、季節ごとに変わる匂いのような、静かなものです。

毎日通う場所だからこそ、こどもが小さな変化に気づける園舎でありたいと考えています。

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