「遊び場をつくりたい」とご相談をいただくと、多くの方が遊具を思い浮かべます。
私たちが先に考えるのは、遊具ではありません。こどもが自分で遊びを見つけられる余白です。
遊びは、こどもが自分で自分を育てている時間だと考えているからです。
遊びは、こどもにとっての仕事
大人にとって、遊びは仕事のあとの息抜きです。こどもにとっては逆で、遊びこそが一日の中心にあります。
こどもは遊びながら、体の動かし方を覚えます。友達との距離のとり方を覚えます。うまくいかないときにどうするかを覚えます。
誰かに教わったのではなく、自分で試して、失敗して、もう一度やってみる。この繰り返しが、そのまま育ちになっていきます。
だから園舎の設計では、「遊ばせる」ための場所ではなく、「こどもが自分で遊びはじめられる」場所を考えます。
主語がどちらにあるかで、つくるものは変わります。
「決まっていない」ことが、遊びを深くする
滑り台は、滑るためのものです。使い方がはっきりしているぶん、こどもは数回で満足して次を探します。
一方で、長く使われるのは、何をする場所か決まっていない場所です。
柱の陰、少しの段差、窓辺の出っぱり、階段の踊り場。大人が用途を決めなかった場所に、こどもは自分で意味をつけます。
段差が船になり、隅っこが家になり、細い通路が秘密の道になる。目の前のものを別の何かに見立てる力は、この時期に育つ大切な力だと言われます。
見立てる遊びは、頭の中でイメージを扱う練習でもあります。文字を読むことも、数を数えることも、目の前にないものを頭で扱う作業です。その土台が、遊びの中で育っていきます。
用途を決めすぎた空間では、この余地がなくなります。私たちが余白を残したいのは、そのためです。
自分で決めた遊びは、長く続く
大人が用意した遊びと、自分で始めた遊びでは、続く時間がまったく違います。
自分で決めた遊びには、こどもなりの目的があります。もっと高く積みたい、あの子と一緒にやりたい、昨日より遠くまで行きたい。
目的があるから工夫します。工夫するから集中します。集中が続いた経験は、そのまま「やりきる力」につながっていきます。
集中している時間の長さは、こどもによって違います。同じこどもでも日によって違います。
だから、いくつもの選択肢が同時にある環境をつくります。走れる場所、座り込める場所、隠れられる場所、じっと見ていられる場所。今日の自分に合うところを、自分で選べることが大切だと考えています。
体を使う遊びが育てるもの
登る、降りる、くぐる、跳ぶ、ぶら下がる、渡る。
こうした動きは、体力をつけるためのものではありません。自分の体がどこまで動くのかを知るための作業です。
自分の体の大きさ、手の届く距離、跳べる幅。こどもは何度も試しながら、自分の体の輪郭をつかんでいきます。
この感覚がはっきりしてくると、転びにくくなります。人にぶつからなくなります。自分の力加減が分かるようになります。
平らな床を走るだけでは、この経験は足りません。高さの違い、幅の違い、素材の違い。体の使い方を変えなければ通れない場所が、園舎の中にいくつかあることに意味があります。
少しの危なさを、残しておく
転落や衝突は、設計で防ぎます。見通し、手すりの高さ、角の処理、素材の選び方。ここは妥協しません。
そのうえで、危険をすべて取り除いた場所では、こどもは危険を判断する力を持てないままになります。
少し高いところに登ってみて、下を見て、やめておこうと思う。この判断は、実際に登ってみた子にしかできません。
小さな段差でつまずいて、次から気をつける。転んで痛かった経験が、次の慎重さになります。
大きな怪我につながる危険は、設計で確実に取り除きます。一方で、こども自身が「これはやめておこう」と判断できる程度の高さや不安定さは、育ちの機会として残したいと考えています。
どこまで残すかは、園によって考え方が違うところです。保育の方針をうかがったうえで、一緒に線を引きます。
園庭が取れなくても、遊べる場所はつくれる
敷地に余裕がなく、十分な園庭を確保できないご相談はよくあります。
その場合は、平面ではなく立体で考えます。
屋上、テラス、軒下、階段の踊り場。廊下を少し広げて居場所にすることもあります。天井の高さを変えるだけでも、その場所の性格は変わります。
床面積は増えなくても、こどもが体を動かせる場所の数は増やせます。
大切なのは広さそのものではなく、「行ってみたい場所」がいくつあるかだと考えています。
働く先生と、預ける保護者にとって
こどもを中心に考えることと、大人にとって使いにくいことは、別の話です。
- 遊んでいる場所が保育室から見通せること。死角をつくらないこと
- 片付けと掃除の動線を、遊びの動線とぶつけないこと
- 送迎のときに、遊んでいる様子が保護者の目に入ること
保育士が安心して見ていられること。保護者が安心して預けられること。
この二つが揃ってはじめて、こどもは思いきり遊べます。安心は、遊び空間が成り立つための前提だと考えています。
私たちが目指していること
遊具の多い園庭が、良い園庭だとは限りません。
こどもが自分で遊びを見つけ、自分で決めて、自分で続けられる。そういう時間が一日の中にどれだけあるか。
私たちが園舎の設計で見ているのは、そこです。