老朽化した園舎、建て替えか改修か。何から考えるかの順序

老朽化した園舎を前に、建て替えるべきか、このまま改修して使い続けるべきか。多くの理事長・事業者が最初に迷うのがこの選択です。

この2つは同じ条件で比べられるものではなく、確認すべき順番があります。

老朽化した園舎、まず確認すること

建て替えか改修かを決める前に、まず建物の今の状態を客観的につかむことから始まります。

老朽化はどんな形で表れるか

雨漏りや外壁のひび割れ、設備の故障など、老朽化は日々の運営の中で少しずつ表れてきます。

ひとつひとつは小さな不具合でも、積み重なると修繕の頻度も手間も増えてきます。

老朽化がどんな不具合として表れやすいかは保育園が老朽化すると、どんな問題が起こる?長寿命化改修や改築の検討についてでも取り上げています。

耐震診断・老朽度調査で分かること

建物が新耐震基準(1981年以降に定められた、地震に対する強さの最低ライン)を満たしていても、それだけで改修すれば安心とは言えません。

新耐震基準は地震への強さの目安であり、外壁や設備の傷み具合とはまた別の話だからです。

実際に改修できる範囲かどうかは、耐震診断と老朽度調査という2つの調査の結果を見て判断します。この段階を飛ばして建て替えか改修かを決めることはできません。

耐震診断では建物の骨組みの強さを、老朽度調査では外壁・屋根・設備の傷み具合を、それぞれ数値や写真で確認します。この2つの結果を照らし合わせて、初めて「改修で対応できる範囲か」が見えてきます。

石綿(アスベスト)の有無を調べる

耐震性や老朽度とは別に、改修や解体の前には、使われている建材に石綿(アスベスト)が含まれていないかを調べます。石綿は、吹付けの材料や断熱材・保温材などに使われていることがあり、工事で扱うときは飛散を防ぐ作業の決まりがあります。

大気汚染防止法では、建築物の解体・改修工事の前に、石綿の使用の有無をあらかじめ調べること(事前調査)が義務づけられています。令和5年10月1日からは、この調査を建築物石綿含有建材調査者などの有資格者が行うことになりました。

環境省の案内では、一定規模以上の工事は調査の結果を都道府県などに報告する必要もあります。

調査で吹付け石綿や、石綿を含む断熱材・保温材・耐火被覆材が見つかることがあります。それを除去するときは、作業を始める14日前までに都道府県などへ届け出ます。作業は、飛散を防ぐ基準を守って進めます。

この結果は、費用・工期・工事の計画にそのまま響きます。除去が必要になれば、その分の費用と期間が加わります。保育を続けながら区画ごとに進める改修では、どの区画から石綿を扱うか、そのとき保育室とどれだけ距離を取れるかによって、段階施工の順番も変わります。

耐震診断や老朽度調査と並べて、石綿の有無も早い段階で確かめておくと、後から計画が大きく変わるのを防げます。どの建材に使われているかは建物ごとに違うため、図面と現地を見ながら確かめていきます。

建て替えと改修、それぞれで何が変わるか

診断の結果、改修で対応できる範囲だと分かった場合でも、建て替えと改修のどちらを選ぶかはまだ決まりません。次に、それぞれでできることの違いを比べます。

建て替えで実現しやすいこと

建て替えは、配置や間取りをゼロから決め直せるのが大きな利点です。

重機と木造の骨組みが並ぶ、新築工事の現場

写真: David Brown / Pexels

建物全体を今の基準で作り直すため、古い建物にありがちな、今の基準に合っていない部分も、まとめて解消できます。

一方で、工事の間どこで保育を続けるか、仮設の園舎をどう用意するかという別の課題が生まれます。工事にかかる期間も、改修の段階施工に比べて長くなりやすい点は踏まえておく必要があります。

改修で実現しやすいこと

改修は、使える部分を残しながら進めるため、建て替えに比べて工事の規模を抑えやすいという面があります。

ただし、どこまで直せば安心して使い続けられるかは、老朽化の程度によって変わります。費用も含め、実際の判断は個別の相談の中で確認するのが現実的です。

建て替え・改修のどちらを選んでも、活用できる補助金がある場合があります。詳しくは保育園の補助金はどこから出る?概要や仕組みを分かりやすく解説でご確認ください。

改修を選ぶと向き合う、保育を止めない工事の難しさ

改修に進む場合、保育を続けたまま工事をするという、保育施設だからこそ生まれる制約が重なります。難しさは大きく3つあります。

保育を続けながら園舎を改修するときの3つの難しさを示した図。1段階施工(区画を分けて順番に工事を進める)、2避難経路の確保(保育室等が2階以上にある場合、常用と避難用の経路をそれぞれ維持する)、3面積基準を満たす間取り(既存の柱・耐力壁が部屋の形が限られる)、が互いに関係し合っている。 保育を続けながら改修するときの、3つの難しさ 1 段階施工 区画を分け、1区画ずつ工事を進めながら保育を続ける 2 避難経路の確保 2階以上では常用と避難用、2つの経路を維持する 3 面積基準を満たす間取り 動かせない柱・耐力壁の中で、面積と部屋の形を両立させる
区画の分け方(1)は常用・避難用の経路(2)によって決まり、その残りの形の中で面積基準(3)を満たす間取りを考えるという、3つが連動する難しさがあります。

保育を続けながら進める工事(段階施工)

改修工事の多くは、建物をいくつかの区画に分け、順番に工事を進める「段階施工」という進め方をとります。

一度に園舎全体を工事すると長期の休園が避けられないため、保育を止めずに進めるにはこの方法が欠かせません。

工事中の白い壁の通路。まだ内装が仕上がっていない建物の中を奥まで見通せる

写真: Pavel Danilyuk / Pexels

工事の音には午睡の時間帯への配慮が必要で、送迎の車と工事車両の動線が重なる時間帯の調整も欠かせません。

私たちは工事の順番を決めるとき、図面より先に園の一日の流れを伺います。運動会や発表会の時期に、どの部屋が使えなくなるかも、区画の分け方を左右するからです。

避難の経路を工事中も保つこと

保育室等が2階以上にある園舎では、日常使う経路とは別に、避難のための経路も確保しておく決まりがあります。

工事でどちらかの経路がふさがれると、この決まりを満たせなくなります。

区画の分け方や工事の順番は、両方の経路を工事中も保てるかどうかを前提に組み立てる必要があります。

避難訓練で子どもたちが覚えている道順が、工事の途中で変わることもあります。仮の経路を使う期間は、保育者と一緒に歩いて確かめ、訓練の内容も合わせて見直します。

既存の柱や壁の中で、必要な面積を満たす間取り

改修では柱や壁の位置を大きく動かせないため、必要な面積は足りても部屋の形が細長くなりがちです。

細長い部屋は、保育者が部屋の隅々まで一度に見渡しにくくなり、死角が生まれやすくなります。

同じ面積でも、間口と奥行きのバランスをどう取るかで、見渡しやすさは変わってきます。

判断の順序と、工事の規模で気をつけたいこと

ここまでの内容を順に並べると、診断・比較・計画という3つの段階になります。どの段階も、前の段階の結果をもとに次を決めます。

診断・比較・計画という順番

テーブルに広げた図面を指しながら話し合う手元

写真: SHVETS production / Pexels

まず耐震診断と老朽度調査で、改修で対応できる範囲かどうかを確認します。

次に、建て替えと改修それぞれで実現できることを比べ、園として何を優先するかを考えます。

改修を選んだ場合は、段階施工・避難経路・面積という3つの制約を踏まえて、工事の計画を詰めていきます。

工事の範囲が大きいときに注意すること

建てたときの基準がそのまま残っている建物は、実は多くありません。法令の基準は年々改正されるためです。

今の基準に完全には合っていない建物でも、そのままの状態で使い続けることは認められています。こうした建物を既存不適格建築物といいます。

ただし、壁や柱など主要な部分のどれか一種類について、その半分を超える範囲を直すような大きな工事になると、事情が変わります。こうした工事を大規模の修繕といい、今の基準に建物全体を合わせ直すことが必要になる場合があります。

「改修で済むはずが、範囲によっては建て替えに近い対応が必要になる」という分岐点はここにあります。ご自分の園がどちらに当たるかは、図面と建物を見ながら私たちと一緒に確かめていけば大丈夫です。

建て替えか改修か迷っている方は、SAI+(サイプラス)にご相談ください

建て替えるか改修するか、その判断に絶対の正解はありません。同じ老朽度の建物でも、これからどんな保育をしていきたいかによって、選ぶべき答えは園ごとに変わります。

診断の結果がまだ出ていなくても、迷っている段階からご相談いただけます。園舎の状態や、これから思い描いている保育の姿を聞かせてください。

「うちの園はどちらを選ぶべきか」という問いへの答えは、打合せを重ねながら一緒に見つけていくものだと考えています。

具体的な方向性が固まっていなくても、お問合せ・資料請求より一緒に考えていきましょう。

参考文献