保育の「10の姿」とは? 園舎の設計にどう活かすか

「10の姿」という言葉は耳にしたことがあっても、中身まではよく知らない、という方もいると思います。

「10の姿」とは、幼児期の終わりまでに子どもたちにこう育ってほしい、という姿を10の項目で表したものです。

国の指針では「幼児期の終わりまでに育ってほしい姿」と呼ばれています。保育所保育指針・幼稚園教育要領・幼保連携型認定こども園教育・保育要領の3つに、共通して書かれています。2017年に告示され、2018年から使われています。

到達すべき目標ではなく、子どもの育ちが「だいたいこの方向に向かう」という目安だと考えてください。指針全体の背景は保育所保育指針とは?5領域や10の姿、改定のポイントをわかりやすく解説でも確認いただけます。

「10の姿」の10項目

10の姿は、次の10項目です。どれも「できるようになるべきこと」ではなく、育っていく方向を表しています。

  1. 健康な心と体:自分から体を動かし、食事や着替えなどの生活習慣を自分で行おうとする
  2. 自立心:身の回りのことを自分でやってみて、うまくいかなくても工夫しながらやり遂げる
  3. 協同性:友達と思いを伝え合い、力を合わせて一つのことをやり遂げる
  4. 道徳性・規範意識の芽生え:善悪が分かり、友達の気持ちに共感しながら、きまりを守ったりつくったりする
  5. 社会生活との関わり:地域の人に親しみをもち、公共の施設を大切に使う
  6. 思考力の芽生え:身近な物事に興味をもち、自分なりに試したり考えたりする
  7. 自然との関わり・生命尊重:季節の変化に気づき、動植物をいたわる気持ちをもつ
  8. 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚:数を数えたり形を比べたりし、文字にも親しんでいく
  9. 言葉による伝え合い:自分の思いを言葉で伝え、人の話を聞こうとする
  10. 豊かな感性と表現:美しいものや心動かされる出来事に気づき、感じたことを自分なりに表現する

「育ちの方向性」を、設計ではどう考えるか

10項目のどれも、園舎の寸法や面積を直接指定するものではなく、育ちの方向性を示すにとどまります。

指針・要領が定めているのは子どもの育ちの姿であって、部屋の広さや窓の位置ではないからです。だから打合せでは、10項目をそのまま図面に当てはめる作業はしません。「この育ちが起きやすい場面を、園の一日の中にどれだけ用意できるか」という問いに置き換えて考えます。

10の姿を設計に活かす5つの場面

10項目には、友達と過ごす場面、自分で試す場面、自然にふれる場面など、重なり合うものがいくつもあります。そこで以下では、関わりの深い項目をいくつかの場面にまとめてお話しします。

自分の力でやってみる場面

自分の手が届く高さの棚や取っ手があるかどうかで、自分でやってみようとする機会が増えたり減ったりします。

健康な心と体・自立心の2項目は、どちらも「自分でやってみる」ことが核にあります。着替え、手洗い、片付けといった生活習慣も、遊びの中で工夫してやり遂げる姿も、まず自分の手が届かなければ始まりません。

私たちが設計で気にかけているのは、レバーハンドルや引き戸のような、握力の弱い子どもでも自分で開けやすい建具を選ぶことです。丸いドアノブは大人には扱いやすくても、子どもにはひねりにくいことがあります。

積み木を並べる子どもの手元

写真: https://kaboompics.com/ / Pexels

ただし0〜2歳児と4〜5歳児では手が届く高さがまったく違うので、一つの棚の高さを全年齢で共用すると、どちらかの手には合わなくなります。年齢ごとに棚や取っ手の位置を調整するときは、保育者の日々の観察が参考になります。

友達と過ごし、きまりを大切にする場面

2人で始めた遊びがクラス全体に広がっていく場面に、部屋の仕切り方でどう応えるかも一つの鍵になります。

協同性・道徳性や規範意識の芽生え・社会生活との関わりの3項目は、いずれも「一人ではなく誰かと」がテーマです。友達と力を合わせる姿、みんなできまりをつくって守る姿、地域の人に親しむ姿。どれも、園の中に「自分たち」と感じられる場があるかどうかに関わってきます。

保育所の場合、国の基準では、2歳以上の子ども1人あたりの保育室の面積は1.98㎡以上と定められています(幼稚園は別の基準です)。ただしこれは最低ラインで、クラス全員がゆったり過ごせる広さを保証するものではありません。固定した大部屋しかないと、少人数で落ち着いて話し合う場所は確保しにくくなります。

設計で選べる手段の一つが、引き戸や吸音材を使った可動間仕切りです。人数の変化に合わせて部屋の大きさを変えられます。

ただし完全に閉じる建具にすれば音は仕切れても、保育者が両方の部屋を同時に見渡せなくなります。逆に家具だけで緩く仕切ると見通しは保てても、音は抜けます。どちらを優先するかは、日々の保育者の配置と園の方針によって変わる判断です。

おもちゃを元の場所へ戻しやすい収納も、「使ったら戻す」というきまりを子どもが自分で守りやすくする小さな工夫の一つです。部屋のゾーニングの考え方はコーナーづくりで大事なことは?保育のポイントやレイアウト例を紹介でも紹介しています。

自然にふれる場面

室内から外の変化に気づけるか、外遊びのあと手や物を洗いやすいかが、自然との関わりを左右します。

自然との関わり・生命尊重は、園庭の面積の大小だけで決まるものではありません。室内と園庭のつながり方も同じくらい関わってきます。

窓の高さや配置、土間のような中間領域は、天候に関わらず自然との関わりを続けやすくするための工夫です。園庭そのものの考え方は保育園に園庭は必要?面積基準や設計のポイントをわかりやすく解説でも取り上げています。

土の上で苗や植木鉢を並べ、植え替えをしている子どもの手元を上から見た様子

写真: Eli Pluma / Pexels

一方で土間は、屋外の泥や砂を室内に持ち込む動線でもあります。水拭きできる仕上げにして掃き出しやすくするか、玄関のように泥落としの動線を別に設けるかで、日々の清掃を担う職員の負担が変わってきます。心地よさと片付けやすさは、なかなか両立しにくいものです。

とことん試してみる場面

途中の作品を数日置いておける棚があるかどうかで、試行錯誤を続けられるかが変わります。

木の丸い玩具をトレイに並べる子どもを上から見た様子

写真: Tatiana Syrikova / Pexels

思考力の芽生え・数量や図形、標識や文字などへの関心の2項目は、どちらも「試しながら考える」時間が土台にあります。粘土や紙工作、積み木、数や形を使った遊びは、一度でやり切れず、続きから考え直すことのほうが多いものです。

毎回すべて片付けなければならない部屋では、この「続きから考える」機会が失われます。設計で工夫できるのは、扱う素材に合わせた棚の奥行きです。粘土や紙工作は浅い棚で足りますが、木工や大きな構成遊びには奥行きのある作業台が要ります。

棚をすべて浅い作りにすれば置ける点数は増えますが、木工や大きな構成遊びの途中経過は置けなくなります。反対に奥行きのある棚だけで揃えると、限られた面積の多くを棚が占めてしまいます。

どの遊びの続きを残したいかを保育者と決めてから、棚の構成を決めるほうが現実的です。数や形を使った教材が目に入りやすい棚の配置も、興味をもつきっかけになります。

気持ちを言葉や表現にする場面

大人数の前では言えないことも、数人が向き合える小さな場所があれば言葉にしやすくなります。

言葉による伝え合い・豊かな感性と表現の2項目は、大勢の前より少人数の場でこそ育ちやすい姿です。数人で向き合って座れる小さな空間は、聞く・話すのやり取りが生まれやすい場になります。

設計で選べる工夫の一つが、フェルトやカーペットのような吸音性のある壁・床材です。声がこもらず反響も抑えられるので、小さな声でも聞き取りやすくなります。

ただし壁や床の全面をそうした素材にすると、静けさは高まる一方で掃除のしやすさや耐久性は下がりやすくなります。少人数で話す一角だけに絞って使う、という判断もできます。絵本や素材を手に取りやすい配置も、言葉や表現のきっかけを増やします。

答えは園ごとに違っていい

ここで挙げた工夫は、あくまで一例です。同じ「自立心を育てたい」という思いでも、どんな園舎が答えになるかは園によって違います。

園の理念や保育方針が違えば、子どもが「自分でやってみる」場面も、それを支える空間も変わってきます。棚ひとつ、建具ひとつを取っても、正解は一つではありません。

思いのままで伝えてください

ご相談のときは、「自立心を育てられる園舎にしたい」「自然の変化に気づける園にしたい」といった、まだ形になっていない思いのままで伝えてください。具体的な仕様に置き換える必要はありません。

たとえば「着替えの用意ができる棚がほしい」という仕様だけを受け取り、そのとおりに設計したとします。それでも、自立心を育てるという本来の思いに応えられるとは限りません。自立心は、棚ひとつで育つものではないからです。

一緒に考えて形にする

どんな園舎なら自立心が育つのか。それを打合せを重ねながら一緒に考え、園と私たちの間で同じイメージを持てるようにしていく。それが設計者の仕事だと考えています。

そうして生まれた答えが園ごとに違うことは、弱みではありません。その違いが、その園だけの特色になります。

ここでお話しした「手の届く高さ」「区切れる部屋」「途中を置ける場所」は、子どもが自分で選び、自分で試せるかという視点から考えたものです。「園庭と室内のつながり」「小さく話せる場所」は、自然を感じられるか、落ち着ける場所があるかという視点から考えています。

環境を通じて保育を行うという考え方そのものは、保育園に必要な環境構成とは?4つの要素とポイント、具体例を紹介でも取り上げています。

10の姿を意識した園舎づくりは、SAI+(サイプラス)にご相談ください

「こんな子どもに育ってほしい」「こんな園にしたい」という思いがあれば、それだけで相談を始められます。その思いをどう園舎の形にするかを、一緒に考えるところからお手伝いします。お問合せ・資料請求からご相談ください。

参考文献