レッジョ・エミリア教育とは?「環境は第三の教師」を園舎の設計で考える

「レッジョ・エミリア」という名前を、研修や園の見学で耳にしたことがある方もいるかもしれません。

レッジョ・エミリア教育とは

戦後のイタリアの町で生まれた、子どもの興味を起点に活動を広げていく幼児教育の考え方です。

生まれた背景

レッジョ・エミリアは、北イタリアにある都市の名前です。第二次世界大戦が終わったあと、この町の近くの村で、住民たちが自分たちの手で子どものための学校を建てたことが始まりでした。

この学校づくりをきっかけに、心理学者のロリス・マラグッツィが関わるようになり、長い年月をかけてこの教育をかたちにしていきました。

子どもの興味を起点にした進め方

その教育は、決められたカリキュラムを順番にこなすものではありません。子どもが今何に興味を持っているかに合わせて、絵を描く、粘土をこねる、話し合うといった活動をその都度広げていきます。

記録という特徴と日本の保育指針との重なり

もう一つの特徴が、記録です。子どもが何を作り、何を話したかを写真やメモで残し、壁に貼って見えるようにします。

日本の保育所保育指針にも、子どもの自発性を大事にする姿勢や、環境を通して保育を行うという考え方があり、根っこの部分では重なり合っています。

設計の立場から見て、この教育でいちばん大事なのは「環境」のとらえ方です。

「環境は第三の教師」とは

保育者や家族に並ぶ、もう一人の教師として、部屋や庭そのものを位置づける考え方です。

三人目の教師という考え方

レッジョ・エミリアでは、子どもを育てる存在を「教師」という言葉で三つに整理します。

一人目は保育者や家族などの大人、二人目は一緒に過ごす他の子どもたちです。そして三人目に挙げるのが、子どもが日々過ごす環境そのものです。

窓の位置、床の素材、棚の高さ、部屋のつながり方。これらは単なる建築の仕様ではありません。

「触っていい」「ここに座っていい」「あっちへ行ってみよう」と子どもに伝える、もう一人の教師だと考えます。

日本の指針との違いと設計事務所の視点

この発想は、日本の指針・要領が掲げる「環境を通して保育を行う」という考え方とも地続きです。

違うのは踏み込みの深さで、レッジョ・エミリアは環境そのものを、子どもを育てるものとしてはっきり位置づけている点にあります。

設計事務所として大事にしたいのはここです。壁や床を「仕上げ」として選ぶのか、「もう一人の教師」として選ぶのかで、同じ予算でも出来上がる部屋の質は変わってきます。

環境を設計に置き換える3つの視点

設計で決めることと、それによって子どもの過ごし方がどう変わるかを並べると、次のようになります。

設計で決めることと、子どもの過ごし方の変化。光(窓の向きと大きさ)で、活動の時間は明るく午睡の時間は落ち着ける。素材と展示(棚や掲示の高さ)で、子どもが自分で選び自分で飾れる。動線(部屋と園庭のつながり)で、興味に合わせて行き先を選べる。 設計で決めること 子どもの過ごし方 光 窓の向きと大きさ 活動の時間は明るく 午睡の時間は落ち着ける 素材と展示 棚や掲示の高さ 子どもが自分で選び 自分で飾れる 動線 部屋と園庭のつながり 興味に合わせて 行き先を選べる

光

同じ窓でも、向きと大きさの選び方ひとつで、明るさの感じ方や部屋での過ごし方が変わります。

保育室では、朝の活動時間と午睡の時間で、部屋に求められる明るさがまるで違います。

活動する時間帯は手元がよく見える明るさが欲しく、午睡の時間帯は落ち着いて眠れる薄暗さが欲しくなります。

大きな窓から日が差し込む保育室に、木の棚や木製のテーブルとベンチが置かれている

写真: Ksenia Chernaya / Pexels

一つの窓でこの両方をまかなおうとすると、どちらの時間帯にとっても中途半端な光になりがちです。そこで、光を通す窓と、カーテンや庇で調整できる窓を分けて考えます。

なお、居室には採光に必要な窓の大きさの最低ラインが法令で決まっています(床面積の5分の1以上)。

これはあくまで最低限の基準で、そこから先、どちらの時間帯を優先してどう光を設計するかは、園ごとの一日の過ごし方を聞きながら決めていくところです。

素材と展示

木や布といった素材の選び方と、子どもの作品を見せる場所の作り方は、どちらも環境を教師にする工夫です。

保育所保育指針には、玩具などについて音や形、色、大きさを子どもの発達に合わせて選び、身の回りの点検を欠かさないという記述があります。

自然素材にするか人工素材にするかは、子どもの発達に合っているかと、点検のしやすさの両方から考えます。

もう一つ大事なのが、子どもの作品や活動の記録を見せる場所です。

レッジョ・エミリアの園が壁に写真や作品を貼り出すのは、単なる飾りではなく、子ども自身に「自分たちの活動には意味がある」と伝えるためです。

子どもが描いた虹の絵が、低い位置に何枚もテープで壁に貼られている

写真: Cup of Couple / Pexels

このとき効いてくるのが展示する高さです。高い位置に貼ると、子どもの作品でも大人が見るための掲示になってしまいます。子どもからは見えにくく、手も届きません。

子どもの目線と手の届く高さに棚や掲示スペースを作ると、子どもが自分で選び、自分で飾る場所に変わりやすくなります。

棚を固定にするか可動にするかは、園がどこまで配置を組み替えたいかによって変わります。このあたりから設計の相談が始まります。

動線(集まる場所と一人になれる場所)

保育室と園庭のつながりを開くほど、子どもは自分の興味で行き先を選べるようになります。

動線が区切られすぎていると、子どもは大人に指示された通りにしか動けません。

逆に保育室どうし、保育室と園庭のつながりを開くと、子どもは自分の興味で移動先を選べるようになります。

ただし開けば開くほどよいわけではありません。動きの速い子どもと、絵本を読んで落ち着きたい子どもが、同じ空間で交差しやすくなるからです。

窓辺の低い本棚に絵本が並び、床に座って読める読書コーナー

写真: Mireia Miralles / Pexels

走り回れる場所と静かに過ごせる場所のあいだに、視線は通しつつ仕切れる可動棚のような工夫を挟みます。

そうすると、行き来のしやすさを保ったまま、両方を成り立たせやすくなります。

低い位置に置いた棚や什器は、地震のときに倒れて通り道をふさぐこともあります。

家具は壁に金具で固定し、避難経路をふさがない配置にするという備えは、開かれた動線を選ぶときほど欠かせません。

行き来のしやすさ(回遊性)を高めるからこそ、安全の設計も一段丁寧にします。

回遊性の考え方はコーナーづくりで大事なことは?保育のポイントやレイアウト例を紹介でも取り上げていますので、あわせてご覧ください。

レッジョ・エミリアを掲げていない園でも活きる考え方

レッジョ・エミリアの園を目指していない園でも、環境を教師として見直す考え方はそのまま使えます。

教育方針を問わず見直せる要素

ここまで見てきた光・素材・展示・動線は、特定の教育方針を掲げていなくても見直せる要素です。すでに、環境を通して保育を行うことは保育の基本になっています。

レッジョ・エミリアという名前を掲げるかどうかは関係なく、部屋そのものが子どもの過ごし方に合っているかどうかを一度見直してみる価値はあります。

今の園舎でも見直せるところ

今の園舎でも、見直せるところはあります。棚や掲示の高さが子どもの目線に合っているか。窓は動かせなくても、カーテンや家具の配置で光の入り方は変えられます。

子どもが自分で選べる範囲を広げられる場所がないか、日々の様子を見ながら探してみてください。

環境構成の基本的な考え方は保育園に必要な環境構成とは?4つの要素とポイント、具体例を紹介でも取り上げています。

レッジョ・エミリアを取り入れた園舎づくりは、SAI+(サイプラス)にご相談ください

思いをうまく言葉にできなくても、設計の相談は始められます。「こんな子どもに育ってほしい」という思いや、今の園舎で困っていること、園の一日の流れを聞かせてください。

そこから、その園にとっての「第三の教師」をどう形にするかを、打合せを重ねながら一緒に考えていきます。

具体的な間取りが固まっていない段階からでも、お問合せ・資料請求よりご相談ください。

参考文献