保育園の増設に関する建築基準、設計のポイントを解説

近年、共働き世帯の増加に伴い、保育園の需要が高まっています。
保育園の増設(ここでは施設の増築や定員の変更の意)を検討する際には、建築基準法や各自治体の条例を満たすことが重要です。また、子どもたちが安全に過ごせる環境を整え、保育士の業務負担を軽減するための設計も重要なポイントになるでしょう。
この記事では、保育園の増設に関わる建築基準の基本や、設計時に押さえておきたいポイントについて詳しく解説します。
保育園増設に関する建築基準

保育園の増設を検討する際、まず確認しておきたいのが建築基準です。
保育園は児童が長時間過ごす施設であり、安全性・耐震性・避難経路の確保など、多くの基準をクリアする必要があります。
特に、以下の3つの基準を押さえておきましょう。
■建築基準法(消防法及び関係法令含む)
■保育園の設置基準
■自治体の独自基準
それぞれ詳しく解説します。
建築基準法
建築基準法は、建物の安全性や衛生面を確保するための法律で、保育園の増設(増築)にも厳格な規定が適用されます。
特に既存建物との接続、耐火・準耐火・防火性能の確保、避難経路の確保、耐震基準の適合等が求められます。
例えば、3階以上の建物を敷地内増に増築で考えている場合には耐火建築物とすることが求められ、2階部分の床面積が300㎡を超える場合には、耐火建築物又は準耐火建築物としなければなりません。
参考:建築基準法
また、建築基準法施行令第121条では、「床面積が50㎡を超える場合、2つ以上の直通階段を設けること」が義務付けられています。
2階以上の増設を行う場合は、避難階段の増設が必要になる可能性があるため、事前に確認しましょう。
参考:建築基準法施行令
さらに、日本は地震が多い国です。
既存の建物に増築を行う場合、構造全体の耐震性を確保する必要があるため、建築士による耐震診断を受けた上で計画を進めることが推奨されます。
耐震補強を行う際には、国や自治体の補助金制度を活用できる場合があるため、事前に情報を確認しておくとよいでしょう。
保育園の設置基準
保育園を増設する際には、国が定める「児童福祉施設の設備及び運営に関する基準(厚生労働省令第63号)」を遵守する必要があります。
これは、子どもが快適かつ安全に過ごせる環境を確保するための基準です。
保育園の種類 | 設置基準 |
0・1歳児を入所させる保育園 | 乳児室の面積:1.65㎡以上/人 ほふく室の面積:3.3㎡以上/人 |
2歳以上児を入所させる保育園 | 保育室又は遊戯室の面積:1.98㎡以上/人 屋外遊戯場の面積:3.3㎡以上/人 |
例えば、定員20名の0歳児クラスを増設する場合、最低でも乳児室33㎡以上、ほふく室66㎡以上のスペースが必要になります。
加えて、トイレや手洗い場の設置も義務付けられています。子どもたちが安全に利用できるよう、ドアの開閉方向や高さ、床材の滑りにくさなども重要になるでしょう。
自治体の独自基準
保育園の増設には、国の基準だけでなく、自治体ごとに定められた基準を満たす必要があります。
特に、認可保育園として運営する場合には、自治体の指導監査を受けることが義務付けられているため、増築計画の段階で事前に相談し、必要な要件を確認することが重要です。
例えば、東京都の認証保育園の場合、乳児室やほふく室、保育室などの面積や避難経路の確保について明確な基準が設けられています。
参考:東京都認証保育所事業実施要項
保育園を増設する際の設計ポイント

保育園の増設を成功させるためには、安全性や機能性を考慮した設計が求められます。
子どもたちが安心して過ごせる環境を整え、保育士の負担を軽減する工夫を取り入れることが重要です。
ここでは、保育園を増設する際の設計ポイントについて詳しく解説します。
安全性を確保する
子どもたちが安心して過ごせる環境を提供するためには、以下の3つのポイントに注意する必要があります。
【動線設計】
まずは、保育者や子どもたちが移動しやすいよう、動線設計に気を配りましょう。
子どもたちが安全に移動できるよう、廊下の幅を広くしたり、滑りにくい床材を使用したりするといった配慮も求められます。
また、壁のコーナー部にはR(曲面)加工を施すことで、衝突時に子どもがケガをしてしまうリスクを軽減できます。
【防犯対策(不審者対策・施錠管理)】
子どもたちを安全に保護するためには、侵入防止のための防犯対策が必要です。
エントランスや園庭にはオートロック機能を設け、外部からの不審者の侵入を防ぎましょう。
また、職員用のIDカードを活用した入退室管理、監視カメラを設置することで、園内外の安全管理を強化することができます。
【自然災害対策】
地震や火災などの自然災害に備えた設計も重要なポイントです。
耐震基準を満たした建築構造を採用し、避難ルートを確保することで、万が一の際にも安全に避難できる環境を整えましょう。
さらに、防火扉やスプリンクラーなどの防火設備を適切に設置し、定期的な点検を実施することも必要です。
災害時の避難訓練を定期的に行い、子どもたちや保育士がスムーズに行動できるように備えましょう。
保育士の負担を軽減する
保育園の増設においては、保育室のレイアウトを工夫し、仕切りの配置を最適化することで、保育士が園児全体を見渡しやすい環境を作ることが可能です。
保育士の働きやすさを考慮した設計を取り入れることで、業務の効率化と保育の質向上を図ることができます。
例えば、乳児室やほふく室は、必要に応じて間仕切りを開閉できる設計にすることで、柔軟な保育環境を実現できます。園内に多目的スペースを設けることで、室内遊びや行事、保護者向けのイベントなど、幅広い活動に対応できるでしょう。
子どもたちが主体的に遊べる環境を整えることで、保育士の見守り負担を軽減しながら、子どもたちの自主性を育むことができます。
年齢ごとに適した遊具や設備を配置し、子どもたちが自分のペースで活動できるよう工夫することが有効です。
補助金・助成金を活用する
保育園の増設にかかる費用については、国や自治体の補助金を活用することをおすすめします。
国の補助金制度である「保育所等改修費等支援事業(保育対策総合支援事業費補助金)」は、幼稚園において長時間預かり保育を実施する際や、認可外保育施設が認可保育所等の設備運営基準を満たすために必要な改修費等の一部を補助する事業です。
他にも、神奈川県(横浜市)には、以下のような補助金制度があります。
■民間保育所等設備等リフォーム事業(中規模改修事業)
■横浜保育室認可保育所移行支援事業
■院内保育所施設整備費補助事業
「民間保育所等設備等リフォーム事業」は、開所後10年以上が経過し、1歳児クラスの定員が満たされている保育施設を対象に、設備改修費の一部を補助する制度です。
申請を希望する場合には、必ず事前相談が必要となります。
自治体ごとに補助金制度が異なるため、増設を計画する際は、自治体の公式サイトや窓口で最新情報を確認し、適用できる制度を活用することが重要です。
補助金の申請には期限が設けられていることが多いため、早めに手続きを進めることをおすすめします。
保育園設計の実績が豊富な建築設計事務所に相談する
保育園の増設を成功させるためには、保育園の設計に精通した建築設計事務所に相談することが重要です。将来的な拡張や運営のしやすさを考慮した設計を提案してもらうことで、長期間にわたって快適に利用できる施設を実現できます。
また、専門的な知識と経験を持つ設計事務所であれば、建築基準法や保育園の設置基準、自治体の独自基準を的確に把握し、最適な設計を提案してくれます。
補助金や助成金の申請に関するアドバイスも受けられるため、増設費用の負担を軽減しながら計画を進められるでしょう。
事前に打ち合わせを行い、園の方針や希望をしっかり伝えることで、理想の園舎を実現することができます。
保育園の増設はサイプラス(SAI+)にご相談ください
保育園の増設の際には、建築基準法や国・自治体の設置基準を意識する必要があります。
また、子どもたちの安全を確保しつつ、職員の働きやすさに配慮することも大切です。
私たちサイプラス(SAI+)は、幼稚園や保育の設計を専門的に手がける建築設計事務所です。
法令や国・自治体の設置基準に準拠した設計はもちろん、デザイン性や保育のしやすさ、子どもたちに向けた遊びの工夫にもこだわりを持っており、豊富な建築事例がございます。
一からの設計はもちろん、園舎や園庭の増設についても、豊富な経験を活かしてお客様のニーズに合わせた提案を行いますので、ぜひお気軽にご相談ください。